こういった、独特の空気が嫌いだった。嫌だった。だいすきなひとが、とおくへいってしまうかんかくが。とても、とても嫌だったのだ。だけれど嫌だといっても何かが変わるワケではないと言うことをあたしは自覚してしまっている。知ってしまっている。というか、今知ったのだ。鮮明に。とても、鮮明に。

「せんぱいがそつぎょうしてしまったー…!」
「あーお前牛尾の事恐ろしく慕ってたからな。」
「せんせー、羊谷せんせーなぐさめてー!」
「馬鹿だろ。」
「(ばかて!)ひ、ひどいせんせい!」
「虎鉄と仲いいだろ、お前。虎鉄に慰めてもらえ。」
「なんでそんな事言うの、せんせい!」


あたしの憧れであり密かに玉の輿を狙っていた牛尾先輩は昨日、卒業した。昨日は全然哀しくなんかなくて、卒業してもたぶんきっとまたあえるだろうなあ、と言う想いを抱いていたのにも関わらず、今日、いつもリムジンで登校してくる牛尾先輩の姿が見えないことに気づいて、泣きそうになった。っていうか泣いた。人間は失ってから大切さに気づくのだなあ。とかベタで王道な事を想いつつも泪で滲んでよく辺りが見えない。本格的に声を上げて泣き出したあたしをみて、あたしが一番信頼している羊谷せんせいの所に虎鉄がつれてきてくれたのだ。グッジョブ虎鉄!お前中々空気読めねえと想ってたけど空気読めるじゃん感動!とか想いつつも泪は止まる事を知らない。もうこんな顔じゃ授業受けれないよ。まあさっき教室で号泣したんだけどね!虎鉄が気を使ってここ、野球部の部室の裏までつれてきてくれるくらい号泣したけどね!野球部の部室の裏で、せんせいはいつものように煙草を吸っていた。煙が目に染みる。また泣きそう、だ。牛尾先輩。別にすきとかそういった感情はなかったけど先輩はあたしの憧れだったよ。っていうかあたしも貴方みたいな生活がしたかったです。っていうか玉の輿に乗りたかった。先輩、不純な動機で先輩との結婚を狙っててごめんなさい。まあ先輩があたしの「先輩玉の輿に乗せてください」って言う台詞を一度だって本気にした事が無いことくらい知ってるよ。先輩。先輩。こんなに、牛尾先輩とあたしって仲良かったんだね。何度か遊んだよね、庶民の遊び。先輩は確か太鼓の達人が好きだったよね。憶えてるよ。そしてプリクラの写りの悪さに怒って専属カメラマン呼んだ事もあったよね。まあぶっちゃけアレには素でひいてしまった…ごほごほ。せんぱいー、また遊びたいよー!

「うっ、うっ、せんぱい、」
「お前泣きすぎだ。…っていうかお前がいるとゆっくり煙草吸えねえ。」
「なんでそういうこというの!せんせいのばか!」
「あーはいはい。」


せんせいは何時もと同じくあたしの存在を無視して煙草を吸う。やっぱり煙で泣きそう。もう泣いてるけど。というか煙草を吸ってる男の人の指ってかっこいいなあ、とか想った。先生は奥さんいるのにごめんなさい。一瞬でもときめいてごめんねせんせい。「せんせい、煙草ください。」あたしは気がつけばとんでもない事を口走っていた。


「…は?」
「煙草すってみたい。」
「いや、お前未成年だろ。」
「せんせいから正論聞きたくないよ。」
「…、」

いつもむちゃくちゃな事をしているこの人に、正論を言われるのが少し腹が立った。今日だけ、今日くらい煙草を吸ってみてもいいじゃない。だって寂しいんだもん。煙草の苦さで、この寂しさを忘れたいよ。せんせい、せんせい。…せんぱい。


「…俺も一応教師だからな。」
「…けち。」
「けちじゃねえよ。」
「ばか」
「ばかはお前だ。教師の前で煙草吸いたいとか馬鹿だろ。」
「…うん。」


結局煙草吸えなかったなあ。まあ如何しても吸いたいってわけじゃないし吸ったこと無いから好奇心みたいなものだったんだけど。そう想いながら目を伏せたら、また泣き出しそうになって、慌てて顔を上げる。もう泣きたくない。目は腫れるし苦しいし。そんなあたしを見て、せんせいは溜息を吐いた。

「…。」
「…なに、」

先生に呼ばれて先生の方を向くと、至近距離に先生がいて、吃驚した。吃驚している間もなく、先生に、口付けられた。…あれ?先生に、口付けられ た!?重なった唇が少し苦い。苦くて苦くてだけれども吃驚している気持ちの方が大きい。え、なんで

「…なんで、せんせい」
「吸いたいって、言っただろ。味わかったか?」
「…不倫だ。」
「馬鹿か。」

そういって笑うせんせいに不覚にもときめいた。(せんせいのおくさん、せんせい、ごめんなさい)そして牛尾先輩の事はもう頭から消えていたという。(…)あれ、コレって先生マジック!?

残るのは煙草の、



































(0606)柚木様、ネタありがとうございました!